はじめに:法制化に向けた大きな転換点
顧客等からの不当・悪質な言動である「カスタマーハラスメント(カスハラ)」から労働者の就業環境を守るため、法改正によるカスハラ対策の義務化が進められています。東京都をはじめとする自治体での条例制定も相次ぎ、理不尽な要求や暴言から現場の従業員を守ることは、企業の法的・社会的責務となりました。
しかし、現場で対策を推進するにあたっては、生活者・消費者側の受容性をどのように確保するかという新たな課題も浮き彫りになっています。
主要データから見える生活者の心理
- 企業・ブランドイメージへの好影響カスハラ対策を実施することに対し、生活者の57.0%が「好感度が上がる」、49.6%が「信頼性が高まる」と回答。特に女性50代やシニア層において、「従業員を大切にする企業姿勢」への評価が高い傾向にあります。
- 消費者側が抱く2大不安一方で、対策が進むことによる懸念として以下が挙げられています。
- 「問い合わせや意見が伝えにくくなる(39.5%)」
- 「サービスの柔軟性が失われないか不安(40.4%)」
- 現場の疲弊(産業別労組等の実態調査より)サービス・流通従事者の多くが理不尽な迷惑行為に遭遇した経験を持つ一方で、従来は「お客様第一」の風潮から毅然と断れず、現場従業員の離職やメンタル不調が深刻化していました。
協会の考察:「正当なクレーム」と「カスハラ」の線引き
消費者の不安の本質は、「正当な改善要望やトラブル相談までカスハラ扱いされて門前払いされるのではないか」という点にあります。
対策を進める企業は、「毅然とした対応」を打ち出すと同時に、「改善のためのご意見や正当な要求は大歓迎である」というメッセージを対外的に発信し続けることが重要です。
| 区分 | 具体例 | 企業の対応基本方針 |
| 正当な苦情・要望 | 商品不良に対する交換依頼、オペレーションミスへの指摘 | 丁寧かつ迅速に事実確認を行い、誠意を持って謝罪・改善する。 |
| 過剰・不当な要求 | 土下座の要求、法外な金銭補償、従業員個人の解雇要求 | 組織の基本方針に基づき、要求に応じられない旨を毅然と伝える。 |
| 悪質な言動(カスハラ) | 暴言、人格否定、長時間の拘束、店舗居座り、SNS晒し予告 | 複数名での対応・録音の告知・場合によっては警察への通報を行う。 |
今後企業が整備すべき実務ポイント
- カスハラ基本方針(ポリシー)の策定と社外公表「何を守り、どの行為に対して対応をお断りするのか」をホームページや店頭に明記し、消費者・従業員の双方に透明性を持たせます。
- 現場任せにしないエスカレーションルールの策定個々のスタッフが1人で抱え込まず、一定時間を超えた場合や威圧的言動が出た時点で管理職・専門部署へ速やかに交代する体制を構築します。
- 正当なフィードバックを受け付ける導線の維持カスハラ対応と通常の顧客サポートを明確に区別し、サービスの改善につながる生活者の声を受け止める柔軟な運用を担保します。
【引用・参考元】
- 日本インフォメーション株式会社「~社会や価値観とともにアップデートするコミュニケーションの実態~ ハラスメントに関する調査2026」
- 政府広報オンライン「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介」
- UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)「カスタマーハラスメント実態調査」
- 東京都産業労働局「カスタマーハラスメント防止対策に関するガイドライン」
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